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大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)7446号 判決 1982年10月29日

原告 河合留士

右訴訟代理人弁護士 平栗勲

被告 シャープ家電株式会社

右代表者代表取締役 土屋誠治

右訴訟代理人支配人 渡辺雄史

右訴訟代理人弁護士 西本剛

同 笹原滋功

主文

一  被告は原告に対し、別紙手形目録記載の番号3ないし60の約束手形五八通を引渡せ。

二  原・被告間において、別紙手形目録記載の番号3ないし60の約束手形五八通について原告の被告に対する債務の存在しないことを確認する。

三  被告は、原告に対し、金一〇万五、二〇〇円及びこれに対する昭和五六年一〇月二二日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨の判決並びに仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、顧客が販売店より購入した商品並びにこれに関連する工事の代金を顧客に代わり販売店に立替払いするいわゆるクレジット契約の締結を一業務内容とする株式会社である。

2  原告は、訴外株式会社六商(以下「六商」という。)との間で昭和五六年三月二一日、原告の経営するお好み焼店「赤とんぼ」の店舗改装工事請負契約を締結し、同年三月三一日までにその請負代金四二二万円の内金二二〇万円を六商に支払った。六商は、同年四月一〇日頃、右店舗改装工事を完了し、原告に引渡した。

3  原告は、右請負残代金二〇〇万円を被告からの融資金で賄うこととし、昭和五六年五月一五日、被告との間で、右金二〇〇万円を被告が原告に代わって六商に立替払いすることを主たる内容とするシャープ増改築クレジット契約(以下本件クレジット契約という。)を締結した。

4  原告は、右立替金の返済のため、昭和五六年六月一〇日、被告に対し、別紙手形目録記載の約束手形六〇通を振出し交付し、同目録番号1及び2の約束手形二通を支払期日にそれぞれ決済した。

5  然るに、被告は、六商に対し前記請負残代金二〇〇万円の立替払いをしないので、原告は、被告に対し、昭和五六年八月二一日到達の内容証明郵便をもって、同月二五日までに右立替払いをするよう催告し、かつ右期限内に立替払いのないことを停止条件として本件クレジット契約を解除する旨の意思表示をした。被告は、右期限を経過しても六商に対し右金二〇〇万円の立替払いをしないので、本件クレジット契約は昭和五六年八月二五日の経過をもって解除された。

6  よって、原告は、被告に対し、本件クレジット契約の解除による原状回復請求として、交付ずみの別紙手形目録記載の番号3ないし60の約束手形五八通の返還と決済ずみの約束手形金一〇万五、二〇〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和五六年一〇月二二日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金並びに右約束手形五八通について原告の被告に対する債務の存在しないことの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は知らない。

3  同3の事実のうち、金二〇〇万円が六商に立替払いされるべきことは否認し、その余は認める。

4  4同の事実は認める。

5  同5の事実のうち、原告主張の内容証明郵便による解除の意思表示が昭和五六年八月二一日被告に到達したことは認めるが、その余は否認する。

三  抗弁

1  訴外日本店舗ローン株式会社(以下「店舗ローン社」という。)は、工事施工業者(販売店)より紹介をうけたクレジット利用希望者(施主―顧客)の委託をうけて、融資(立替払)をうける施主より取扱手数料として融資額の年二パーセントを、販売店より業者手数料として融資額の二パーセントをそれぞれ徴収してクレジット契約締結の媒介を業とする会社である。

2  原告及び六商は、店舗ローン社に対し、昭和五六年四月ころ、本件クレジット契約締結の媒介を委託し、その際原告は、六商の代理店である店舗ローン社との間で、被告から融資をうける請負残代金の立替金を直接六商に支払うことなく、一旦被告から店舗ローン社に対し立替金を交付し、右立替金より媒介手数料を控除した残額を店舗ローン社から六商ないし原告に交付するとの合意をした。

3  被告は、昭和五六年四月二三日ころ、店舗ローン社を介して原告より本件クレジット契約締結の申込をうけ、所定の審査を経たうえ、同年五月一五日、右申込を承諾し、原・被告間で本件クレジット契約を締結した。

右契約締結の際、原告は、被告に対し、立替金二〇〇万円を六商の代理店である店舗ローン社に支払うよう指定したので、被告は、店舗ローン社に対し同年五月二八日右立替金二〇〇万円を交付した。

四  抗弁に対する原告の認否及び主張

1  抗弁3の前段の事実は認める。同後段の事実のうち、原告が被告に対し立替金二〇〇万円を店舗ローン社に支払うよう指定したこと及び店舗ローンが六商の代理店であることは否認する。

2  (原告の主張)

(一) 店舗ローン社は、被告が大阪でシャープ増改築クレジット業務をするについて特に大阪営業所を開設し、被告の特約店・代理店として営業活動をしてきたものであり、昭和五四年四月から昭和五六年六月頃までの間に一〇〇件以上のシャープクレジット契約を成約させた。しかも、店舗ローン社が大阪で営業を始めてからは、被告が出入の業者を通じてクレジット契約をする以外は、すべて店舗ローン社が独占的にシャープクレジットの取扱いをしてきた。したがって、店舗ローン社は、被告の締約代理商または媒介代理商である。

(二) 原告が本件シャープクレジットを利用したのは、店舗ローン社が被告の特約店として六商にシャープクレジットの利用を勧め、六商が顧客の原告にシャープクレジットを紹介したことによる。六商は、シャープクレジットを原告に紹介したのみで、右以外は本件シャープクレジットの契約手続に何ら関与せず、原告自らが店舗ローン社に出向いてクレジット申込書、パンフレットなどをもらい本件クレジット契約締結の申込をした。その後の所定の手続も原告は店舗ローン社を通じてなし、立替金返済のための割賦手形も店舗ローン社を通じて被告に交付した。

このように店舗ローン社は、被告の代理店として行動したのであり、販売店である六商の代理店としての行為は何もしていないから、六商の代理店ではない。また、店舗ローン社は、原告の代理人としての立場にもない。

(三) 原告は、被告との間で昭和五六年五月一五日本件クレジット契約を締結した際、工事完了・物件引渡確認連絡書兼立替払依頼書なる書面に署名押印するよう求められた。右書面にはあたかも原告が被告に対し店舗ローン社に立替金を支払うよう依頼した趣旨にとれる記載があるが、同書面中の販売店名欄には契約内容からして当然六商が記載されるべきであり、原告が同書面に署名押印したときには販売店名は空欄のままになっており、店舗ローン社の説明では販売店名欄には六商の署名押印を補充するとのことであったので、原告は、それを信じて同書面に署名押印した。

(四) 原告は、六商との間で請負契約を締結し、工事完了後引渡をうけ、請負代金の内金も六商に対して支払っているのであるから、六商に対して請負残代金の立替払いがなされてはじめて本件クレジット契約締結の目的を達することができるのであり、被告が店舗ローン社に金員を交付したのは、いわば自己の代理人に相手方へ支払うべき金員を交付した場合と同一であり未だ立替払の履行はなされていない。仮に、店舗ローン社が独立の商人として自己の計算において本件クレジット契約に関与したとしても、店舗ローン社は、昭和五六年六月下旬倒産したので、右倒産による損失を誰が負担すべきかという問題として考えると、その危険は店舗ローン社を自己の支配下においていた被告が負担すべきは当然であり、クレジットを申込んだ原告のような一般消費者にこれを負担させることはできない。

五  原告の主張に対する被告の反論

1  被告と店舗ローン社とは無関係な会社であって、被告は、シャープクレジットの契約締結に際して店舗ローン社に対して何らの手数料も支払わないし、両社の間に資本関係や支配関係はなく、店舗ローン社は被告の代理商ではない。

2  本件クレジット契約申込書には販売店の記載欄と同枠内に代理店名記入の箇所があり、「販売店六商、代理店名日本店舗ローン」と記入されているが、これは明らかに販売店の代理店としての記載である。

第三証拠《省略》

理由

一1  請求原因1(被告の業務内容)の事実は、当事者間に争いがない。

2  同2(原告と六商との間の請負契約の締結)の事実は、《証拠省略》を総合すると、これを認めることができる。

3  同3(原・被告間の本件クレジット契約の締結)の事実は、立替払い先が六商であることを除き、当事者間に争いがない。そして、立替金二〇〇万円の立替払い先が販売店の六商であることは、《証拠省略》により、これを認めることができ(る。)《証拠判断省略》

4  同4(割賦手形の振出交付)の事実は、当事者間に争いがない。

5  同5のうち、原告主張の解除の意思表示の事実は、当事者間に争いがなく、被告が催告期限を経過しても六商に対し立替金二〇〇万円の交付をしないことは、《証拠省略》によりこれを認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。

二1  次に、被告の抗弁について検討すると、被告が昭和五六年四月二三日ころ、店舗ローン社を介して原告より本件クレジット契約締結の申込をうけ、所定の審査を経たうえ、同年五月一五日右申込を承諾し、原・被告間で本件クレジット契約を締結したことは、当事者間に争いがなく、《証拠省略》を総合すると、

(一)  店舗ローン社は、販売店(施工業者)より紹介をうけた顧客(施主)の申込をうけて、被告ほか一社に対する顧客の斡旋及び店舗クレジット契約締結の媒介(不動産のローン業務代理)等を業とする株式会社であること

(二)  原告がお好み焼店「赤とんぼ」の店舗改装工事について本件シャープ店舗クレジットを利用したのは、店舗ローン社が被告の近畿地区特約店として販売店の六商にシャープクレジットの利用を勧め、六商が顧客の原告に店舗ローン社を紹介したことによること

(三)  六商は、原告を店舗ローン社に紹介したこと以外は、原・被告間の本件クレジット契約締結の手続に何ら関与することなく、原告自らが店舗ローン社に出向いてクレジット申込書、パンフレットなどをもらい、店舗ローン社を窓口として被告に対し本件クレジット契約締結の申込をし、契約締結後も立替金返済のための割賦手形(別紙手形目録記載の約束手形六〇通)を店舗ローン社を通じて被告に交付したこと

(四)  原・被告間の本件クレジット契約は、昭和五六年五月一五日、原告本人、被告の担当者中嶋雅人及び店舗ローン社の担当者前沢則雄の三名が同席して締結され、その際右三者間には本件立替金二〇〇万円は被告から六商に直接支払われず、一旦被告から店舗ローン社に立替金を交付し、次いで店舗ローン社から六商に右立替金を支払うとの了解ができており、原告は、その趣旨のもとに、被告に対し、右立替金二〇〇万円を店舗ローン社に支払うよう依頼し、被告宛の工事完了・物件引渡確認連絡書兼立替払依頼書の顧客欄に署名押印したこと及び六商は、右立替金が被告から店舗ローン社を通じて六商に支払われることを了承していたこと

(五)  被告は、原告の右立替払依頼に基づいて、昭和五六年五月二八日、店舗ローン社に対し立替金二〇〇万円を交付したこと、その後六商が店舗ローン社に右立替金の支払を催促すると、店舗ローン社は、右立替金より顧客の原告が負担すべき取扱手数料の一部と販売店の六商が負担すべき業者手数料を控除した残額を六商に支払う旨回答したので、六商は、立替金全額の支払を要求してその受領を拒否していたところ、店舗ローン社は、同年七月、六商に右立替金の支払いをしないまま倒産し、その履行が不能になったこと

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

2  そこで、右認定の事実のもとにおいて、被告が本件クレジット契約上の立替払いの債務を履行したものということができるかどうかについて判断すると、《証拠省略》を総合すると、

(一)  店舗ローン社は、名古屋市に本店を置き、従来中部地区を中心に営業活動をしてきたところ、昭和五四年四月、被告が近畿地区においてシャープ店舗クレジット業務をするについて、大阪市に被告の近畿地区特約店として近畿事業本部及び大阪支店を開設し、以降昭和五六年七月倒産するまで、一部被告の系列会社がシャープクレジットを利用する場合を除き、独占的にシャープ店舗クレジットの取扱いをし、その間被告に対し継続的に顧客を斡旋し、シャープクレジット契約締結の媒介を行って一〇〇件以上のシャープクレジット契約を成約させたこと

(二)  店舗ローン社は、同社の宣伝用に作成したパンフレットにおいて、店舗ローン社がシャープ店舗クレジットの近畿地区特約店・中部地区特約店並びに全国総特約店であることを明示し、シャープ店舗クレジット・システムはシャープ電機との業務提携による独自のシステムである旨説明し、シャープ製品の利用を勧め、さらに「店舗ローンのしくみとシステム」との欄には店舗ローン社即シャープクレジットであると受け取れる図示及び記載をし、顧客や販売店に対し、被告と店舗ローン社とが一体あるいは密接な関係にあるとの印象を与える説明をしていること及び被告は、店舗ローン社が右パンフレットを作成し使用していることを容認していたこと

(三)  被告と店舗ローン社との間には資本関係や経営上の支配関係はなく、店舗ローン社は、同社のしたシャープクレジット契約締結の媒介行為に対しては顧客より取扱手数料として立替金の年二パーセントを、販売店より業者手数料として立替金の二パーセントをそれぞれ徴収し、被告からは媒介手数料の支払いを受けていないけれども、被告は、店舗ローン社の右媒介行為によって顧客から分割返済利息名下に継続的に利益を得ていたこと

(四)  店舗ローン社の取扱ったシャープクレジットの立替金が一旦被告から店舗ローン社に交付されたうえ、同社から販売店に支払われるしくみになっているのは、これによって店舗ローン社がシャープクレジットの媒介業者としての地位を強固にし、かつ顧客及び販売店からの取扱手数料または業者手数料の支払いを確保するためであること及び工事完了・物件引渡確認書兼立替払依頼書の販売店名欄には本来実際の販売店名が記入されるべきところ、店舗ローン社の右便宜のため販売店名に代えて右欄に同社の記名押印をしていたこと

(五)  被告は、店舗ローン社と継続的な取引関係にあり、同社が被告の特約店としてその媒介代理商であったかどうかはともかく、同社の媒介によって顧客との間にシャープクレジット契約が締結されると、その都度立替金を店舗ローン社に交付してきており、昭和五四年四月から二年余の間に被告が店舗ローン社に交付した立替金の総額は相当の額に達しており、被告は、平素から店舗ローン社の営業状態を調査するなどして同社の信用力を把握することができる立場にあったこと

(六)  本件シャープクレジット契約書には、販売店の記載欄と同枠内に代理店名記入の欄があり、販売店として六商が、代理店として店舗ローン社がそれぞれ記入されているけれども、これは右契約締結の際被告の担当者中嶋雅人が六商に無断で記入したものであり、六商が店舗ローン社を六商の代理店としたことはないこと及び原告が店舗ローン社を原告の代理店または代理人としたことはなく、原告は、被告及び店舗ローン社に対する関係では顧客の立場にあるにすぎないこと

(七)  原告は、六商に対して支払うべき請負残代金二〇〇万円を被告からの立替金で賄うために本件シャープクレジットを利用したものであり、右立替金が六商に交付されない限り、六商から右請負残代金の支払を請求される立場にあり、本件クレジット契約締結の目的を達することができないこと

以上の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上認定の事実によれば、本件クレジット契約において店舗ローン社が被告から交付を受けた立替金を六商に支払うことなく倒産し、その履行が不能になったことによる損失は、衡平の観点から及び信義則上からして、これを顧客である原告に負担させるよりは、店舗ローン社と継続的な取引関係にあり、同社のクレジット契約締結の媒介によって利益を得てきた被告に負担させるのが相当であるから、被告は、本件立替金二〇〇万円を店舗ローン社に交付したことをもって本件クレジット契約上の立替払いの債務を履行したものということはできないというべきである。したがって、被告の抗弁は理由がなく、本件クレジット契約は、被告の立替払いの不履行を理由に昭和五六年八月二五日の経過をもって解除された。

三  よって、原告の本訴請求は、いずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用し、仮執行の宣言については相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官 小野剛)

<以下省略>

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